血液とタービンの水しぶきにまみれ、あるいは針の穴より小さい根管を求めて神経をすり減らし、そしてきれいになった患者さんの口元からでる言葉は皮肉にも「歯の治療は嫌い」。昨今の歯科臨床技術はめまぐるしく発展していますが、この状況は昔からほとんど変わらないままです。
確かに診療室の雰囲気は独特であり、子供や恐怖心の強い患者さんでなくても歯科治療に対しては「嫌だな」という思いがあります。
この歯科治療の恐怖や不安から患者さんを解放させるものとして、長い医療の歴史のなかで確立されてきたものが、笑気吸入鎮静法です。笑気は誰もが持つ「嫌だな」という気持をやわらげることができます。
笑気吸入鎮静法を用いることで、歯科治療に対して「好き」とはいかないまでも「嫌い」と言われなくなれば、多くの人々は自分の健康のために、素直に歯科医院へ通うようになるでしょう。それはすなわち、「歯科疾患を減少させる」という私たち医療人の目標に、大きく貢献するものと思います。
歯科医院を訪れる内科的慢性疾患を持った患者さんのほとんどは、通常の生活ではあまり症状を現しません。しかし、なんらかのストレスや負荷が加わったときに急性症状が出現し、病状の悪化をもたらします。患者さんがこのような状況に至るのを未然に防ぐためには、歯科治療中における患者さんの精神と肉体の安静を保障する事が第一です。
精神鎮静法は患者さんをストレスから守り、精神を安静にさせる事によって、このような偶発症の発生を防止するのに非常に有効です。また、慢性疾患を持つ患者さんはその疾患の治療を優先するために、やむを得ず歯科疾患を放置する傾向にあります。そうなると当然歯科疾患は重症化し、治療に際しては外科的侵襲を加えざるをえないケースが多くみられます。この場合はまさに精神鎮静法の適応であり、積極的に使用することで安全な歯科治療を提供します。このことが、歯科医が行う全身管理といえるでしょう。